君はバイクに乗るだろう VOL.130 |






ウチから10分の距離にある2軒のバイク屋さんにお届けものをしようと家を出たところ、出てすぐの曲がり角にタクシーがケツだけ見せて止まっていた。
角を曲がると結構な下り坂になっている。
40度くらいあるかもしんない。
近所のジイちゃんバアちゃんが登る途中で1回休憩するくらいの急坂だ。
坂の途中のタクシーはなかなか動かない。
お〜い。どうした〜。早く出たいんだけど。
とか思っていると後部座席から近所の山口さん(旦那)が降りてきて、俺に向かって「こっち! そこ!」みたいな手振りをする。
現場に向かったところ、ジャイロキャノピーがひっくり返っていた。
乗っていたのはTシャツにジャージ姿のジイちゃんだった。
ジイちゃんは自力で起き上がれず、当然バイクも引き起こせず、運転中そのままパタンとキレイに横倒しになったまんまの状態で「うげげ……起きれない。起こして」とうめいているではないか。
痛そうというか痛がってるけど、キャノピーの屋根が枠というか檻というかジイちゃんを捕獲したように見えて、あとあまりにも素直に真横になっているので実写版のスタンプみたいにも見えて、「大ジョブっすかーっ!」とジイちゃんを起こしながら俺は少しおかしかった。
ジイちゃんは擦りむいたヒジから血を流している。
頭は打ってない的だけど年取ると風呂場で転んでも骨折っちゃうっていうし、救急車を呼んだほうがいいだろうと、タクシーの中から一連の流れを見物していた山口さん(奥さん)に119番してもらう。
「今救急車呼んだからそこ座って待ってて!」
タクシーの運転手さんと2人でキャノピーを引き起こしてエンジンを掛け、道が平らなウチの前に移動した。
現場に戻ると、ジイちゃんは立ち上がり、坂道沿いの家の壁をつたいながらじりじりと歩き出していた。
「骨折れてるかもしんないから座ってて!」
という俺の言葉には耳を貸さず、ジイちゃんはキャノピーまで到着。シートに座って「ふぇ〜ふぇ〜」と息を吐きながら休んでいる。
こんな時は水かなあ。
と思ったので一度ウチに戻り、嫁さんに「適当なペットボトルに水入れてちょうだい」と頼むと、外でがちゃがちゃやっていたのを見ていたらしく、「氷入れる? お茶のほうがいい?」とかおもてなし感のあることを言ってきたので「ンなもん、なんでもいいんだよ! 水道水でもいいよっ!」と余計なヤリトリがあり、ややあって外に出るとさらに状況が変化していた。
向かいの菅野さんちのドアが開いている。
奥さんと息子が玄関周りでそわそわしている。
聞いたらジイちゃんは大か小かは不明なのだが事故後にもよおし、菅野さんちのトイレに上がり込んでいた。
余裕じゃん。
ちょうど救急車も来たし、あとはよろしくお願いしゃーっす。
と、バイク屋さんに向かったんだけど、足引きずってヒジからダラダラ血を流したわけわかんないジイさんにトイレを貸すなんて、菅野さんの奥さんは優しいなあ。
レディース & ジェントルメン & ザス!
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
嫁によると、処置後、キャノピーを引き上げに来たジイちゃんは松葉杖をついていたけど骨は大ジョブだったそうです。(総合司会・坂下 浩康)
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