更新後記 VOL.96 |

28歳くらいの俺が住んでたのは大田区にある平和荘って名前の、いかにも風呂なし四畳半な感じのアパート。
アパートの向かいにはお墓があった。
窓を開けるとお墓が見える。
ときどき線香のニオイがする。
いいっしょ~。
これは俺的には売りだった。
お墓の隣には八幡浴場という銭湯があった。
俺の部屋は2階だったのだが、階段を下りる歩数を入れても40歩くらいで行ける。
記録を意識して超大股で歩けば20歩で着くだろう。
これも俺的には売りだった。
今は川崎の田舎に住んでいるので基本的には地元の、番台のババアが450円を100円玉4枚と10円玉5枚で払うと露骨に嫌な顔をする銭湯に行ってるわけだが、2ヶ月に1回くらいは八幡浴場に行っている。
なにしろこっちが「こんちゃーす」って言う前に番台のオバちゃんが明るく「こんにちわ~」って言ってくれるのが気持ちいい。
28歳の俺が通ってた頃、番台のレギュラーだったオバちゃんもそうだった。
今の番台を守っている、当時ときどき手伝っていたオバちゃんの娘にもその芸風は受け継がれている。
浴場内はメンテナンスも行き届いてて、はがれかけのタイルをガムテで補修してたりしない。
客のマナーも紳士的で、浴槽のヘリにえんえん座りながらカカトの皮をぷちぷちしてて「そこ邪魔!」って言いたくなるジジイもいない。
三ツ星ですよ。
優良店。
行きつけっつーか恋しい銭湯。
つってこないだ行ったら、消えた!
銭湯はある。
お墓もある。
でも平和荘がない!
平和荘は跡形もなく更地になっていて、「ええ〜〜っ!?」と思ってとりあえず携帯で写真を撮ったらショックのせいかブレていた。
すぐ隣に住んでいる、物凄く品が良い大家の青木さんに聞いてみようか。
でも何を聞く?
どうしよう。
どうするも何も。
俺はなすすべもなくそのまま銭湯に行き、番台のオバちゃんに「こんちゃーす」とあいさつしてから聞いてみた。
「平和荘なくなっちゃったんすね」
「そうなのよ、2ヶ月くらい前に取り壊されて」
「俺、むかーし住んでたんですよ」
「うん。知ってる知ってる」
銭湯のオバちゃんの記憶力はあなどれない。
レディース & ジェントルメン & ザス!
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
銭湯のオバちゃんは28歳の頃の俺のチンコも知ってるのかと思うと感慨深……くもないか。(総合司会・坂下 浩康)
★ ★ ★

