映画『赤い季節』潜入記:後編 ③ ~「神は乗り越えられる試練しか与えない」を検証する~ |
3月14日のロケ地は、静岡の田子の浦と富士川滑空場。
田子の浦の目の前は太平洋だし、富士川滑空場からは富士山が見える。
海と山。
ってだけで、なんか楽しい。
さらには海藤さん(http://youwbike.exblog.jp/17894412/)のカメラカーも出撃する。
海と山だけじゃなく海藤さんもカメラカーも見れるんだから必要以上になんか楽しい & 妖怪好きにはたまらない。
撮影するのは健(新井 浩文)と剛(新居延 遼明)のタンデムシーン。
A地点からB地点までをCBに2人乗りして行ったり来たり。
田子の浦での撮影はそんな感じになるので、A地点とB地点にUターン係を配置しておきたい。
ってことで、健がかぶるメットを提供してくれた立花の河島さん(http://youwbike.exblog.jp/17538659/)と、昔勤めていた編プロの後輩編集者・坂木君に助っ人をお願いした。
まずは朝4時半、東名・港北パーキングで坂木君と待ち合わせしてランブル(http://www.rumbleengineering.com/)に向かい、置かせてもらっているCBをピックアップする。
「お疲れさまで〜す」(やや小声で)
夜勤体制の渡邉さんは黙々と工作ブースで作業中。
コンビニで買った缶コーヒーを差し入れ、そそくさとCBをトランポに積み込みんで出発出発GOGOGO〜ッ!
って東名に向かって走り出し、コンビニを通り過ぎてちょっと行ったところで、ふと……あれ?
財布がない。
ンなわきゃないよな。
さっきコーヒー買ったじゃん。
でもない。
待て待て待て!
置いてきた?
すぐに引き返してコンビニに駆け込む。
あのあの! もしかしてさっき財布を忘れたかもしれないんですけど……。
「これですね」
店員のオバちゃんがビニール袋に入って殺人現場の遺留品みたいになってる財布を差し出した。
あっぶね〜(つか俺が悪い)
東名・由比のパーキングで河島さんと合流して富士川滑空場へ。
CBを下ろしてエンジンを掛けようとセルを回すと……あれ?
掛からない。
ンなわきゃないよな。
昨日は普通に掛かったじゃん。
でも掛からない。
待て待て待て!
バッテリー上がっちゃった?
イグニッションをオフにしたつもりがポジションランプのとこになっていたのだ。
こういう時はなんとなく照明さんな感じがして、照明の前田さんにブースターケーブルを借りてエンジン始動ーッ!
やっぱりいいねえ、この獰猛な音!
富士に轟く4発の咆哮!
あっぶね〜(つか全面的に俺が悪い)
★ ★ ★


★ ★ ★
ロケハンの時に持ち込んだVMAXにはさほど興味を示さなかった海藤さんがCBに喰いついてきた。
「かーっ! シービー! いいね〜。俺もさ、むかしゃ〜ゼッツーとか乗っててさ……ひとつだけお願いしていい?」
なんスか先輩。
「撮影終わったら、CB、ちょっ……とだけ乗らせてくれない?」
目がくりくり輝いている。
俺は妖気に押されて「どうぞ!」と即答した。
監督はじめ、それぞれの助手を含めたカメラマン、照明、録音の面々がカメラカーに乗り込んだ。
それに加えて運転席には海藤さんと、普段ハーレーに乗っててスタントもやるという女性アシスタントが乗り込んでいる。
どんだけ乗れるんだと。
どんだけの最大積載量なんだと。
縁の下の力持ち。
希望という名のカメラカー。
ありがとう、いいクルマです(長嶋 一茂調)
健と剛、そしてCB。
絵にならないわきゃあない。
ただ乗ってて楽しいな〜ってんじゃなくて演技しながら走るのはまた違った難しさがあるのかもしれないけど、新井さん、気持ちよさげだなあ、クラッチがちょっと滑り気味だけども。
青空。
太陽。
春の気配を感じさせる優しい風。
「カアァーーーット!」
監督の声が響いた。
無事終了。
各スタッフが撤収準備をしている間、海藤さんに乗ってもらう時間はありそうだ。
そうだ。
まあ、大丈夫だとは思うけどチェックしとくか。
「ガソリン入ってる?」
CBのそばにいた坂木君に声を掛ける。
そして坂木君がイグニッションからキーを抜き、タンクのフタに差し込んで「パカッ」と開けた瞬間だった。
ぴんっ。
と、かすかな金属音を立てたCBのキーがタンクの中に飛び込んでいった。
内村 航平の鉄棒の着地が「ビターッ」と決まった感じで。
つか!
そそそそそ……そこに着地すんのかい!
嘘だろ!
20何年かバイク雑誌とかやってきたけど、目の前でバイクのキーがタンクの中に消えていくのを見たのは初めてだった。
移動も含めて、30分後には田子の浦でまた走りの撮影をしなくちゃいけない。
ってーのにキーがない。
まただ。
また、心の中の小市民が「えらいこっちゃえらいこっちゃヨイヨイヨイヨイ」と踊り出した。
忙しいなあ今日は。
慌てる俺を尻目に坂木君は意外と冷静だった。
「スタンドとかクルマの修理工場に行けば、先っちょに磁石が付いてて、ボルトとか拾えるようになってる工具があるんで大丈夫っすよ」
へ〜。
そういう便利な物があるんだ!?
少し安心した。
でも時間がない。
CBを積んで、とっとと現場を出る。
田子の浦への道すがら、1軒目のスタンド。
坂木君が助手席から飛び降りた。
店員さんに事情を説明している。
でもってすぐ戻ってきた。
「ないそうです……」
2軒目の外車系修理工場。
「ないそうです……」
心の中の出川 哲朗がヤバいよヤバいよと騒ぎ出す。
3軒目の自動車整備工場へ。
「ありました!」
工場に駆け込んだ坂木君は、細長い棒の先っちょに磁石が付いている工具を手に飛び出してきた。
やったね!
やってなかった。
これが全っ然、拾えないのである。
春まだ浅い3月。
坂木君は汗だくになってタンクの中を突つき回している。
運任せでやっててもラチがあかない。
とりあえずキーがどこにあるかを探そう。
太陽に合わせてCBの位置を少しずつ動かしてみる。
んあーっ!
あったあった!
タンクの底にキーが見えた。
揺れる琥珀色のガソリンの中で銀色に輝いている。
なんかウイスキーのCMみたいでカッコいいじゃん!
と思ったのだが口には出さず、もしかしてキーが鉄じゃないからいくらやってもくっ付かないんじゃないの?
つか腕の問題か?
とも思ったので直接メカニックさんにお願いしてみようと、昼休みで静まり返った工場の中へ行くと、奥にXJRの1200か1300かが置いてあるのが見えた。
なんとなくだけど大丈夫な気がしてきた。
あのバイクの持ち主だったら協力してくれるかも。
すいませーん!
声を掛けると工場長らしき方が顔を出した。
タンクの中にカギを落としちゃったんですけど取れなくて……。
ピット内で何かを手にし、駐車場に出てきた工場長は言った。
「おー……。CBか!」
こんな状況で、「おー」言わせるCBの存在感はさすがである。
そこに見えてるんですけど……。
工場長はタンクの中をのぞき込んで工具を差し込むと、ものの5秒でキーを抜き上げた。
うおーーーーーっ!
釣れたーーーっ!
タンクから上がってきたキーは、サイズ的にはイワシの稚魚くらいだけどインパクトと輝きは太刀魚並みだった。
救世主のカーサービスイクミさん(http://web.thn.jp/C-S-I/)のたぶん工場長さんにひざまずいてお礼を言い、田子の浦へ向かう。
サーセン!
大お待たせしました!
サーーーーセン!
平謝りしながら現場に戻ると、スタッフ一同はスタンバイOKな感じである。
滑空場は荒野を抜ける感じだったけど、海バックもやっぱり絵になるねえ。
青空。
水平線の向こうから吹いてくる潮風。
潮騒と4気筒のハーモニー。
ははははは。
勝った。
こら〜勝ったようなもんでしょ。
と思っていたら最後の最後にガス欠して撮影がまたも中断してしまったことと、海藤さんが「皆さんでどうぞ!」と差し入れしてくれたさつま揚げを食べられなかったのが悔やまれるロケであった。
★ ★ ★




★ ★ ★


