2012年 09月 29日
更新後記 VOL.81 |
★ ★ ★






★ ★ ★
ちょいと用事があってKさんのお店に行くことにした。
コーヒーでも買ってこ。
ってことで近くの安売りスーパーへ。
迷うほど商品点数があるわけじゃないのですぐに2本の缶コーヒーを手に取った俺はバアちゃんの後ろに並んだ。
バアちゃんは会計が始まった瞬間、よく聞こえなかったのだが「冷凍物と乾き物は別々に置いてくれ(or 別勘定にしてくれ)」的なややこしいことをレジ係に頼んだ。
でもレジ係の男性はキョトンというか、「何言ってるか分かんない」って顔をして何か言い返した。
そうか。
中国人留学生かなんかか。
彼も一生懸命何か言ってるけどイマイチ伝わっていない。
言葉の壁に加え、バアちゃんの耳がそこそこ遠いってのも交渉を難航させているようだ。
そのまま2人は平行線。
やがて支払いを無視して買い物入れ用の段ボール探しを始めるバアちゃん……。
温かく見守っていたつもりだったのだが「俺は缶コーヒー2本、チャチャッと買いたいだけなんだよ!」って空気がビンビンに出てしまったのだろうか。
すぐに別な店員がやってきてもう1台のレジを開けてくれた。
ざーっす!
ドアを開けるとKさんはクリーム色のフュージョンの修理中だった。
まままままま。
安売りの缶コーヒーを勧めつつ、用件も含めていろいろくっちゃべっていると、入り口のドアに人が近づいて来る気配がした。
パッと見ると、推定年齢60〜70歳のジイちゃんがドアノブに手を掛けていた。
よれ気味の白いポロシャツによれ気味のベージュのスラックス。
炎天下に5分いたら干からびるどころか蒸発してしまいそうな雰囲気。
でもKさんの知り合いで、買い物ついでに顔出したって感じでもない。
なんだろう、このものすっごい違和感は。
「道を聞きに来た通りすがりのジイちゃん」
俺の答えはそれ以外になかった。
ガチャ。
ドアが開いた。
10センチくらい。
それ以上ドアは開かなかった。
ジイちゃんが「あの〜、駅はどっちでしょうか?」とか聞く前、つまりジイちゃんにはひとことも言わせずに気配を察したKさんが「キャブクリーナー2本!」という声を発した瞬間、ドアはパタッと閉まったのである。
いったい目の前で何が起きているのかサッパリ分からない。
今のは注文?
もしかして軽いケミカル屋的な?
「そう! たま〜に来るんだよねえ……」
え?
散歩中にしか見えない今のジイちゃんは営業マン?
ゼロじゃん!
スーツとは言わないけど、メーカー支給のロゴ入りシャツとか自社のロゴ入りシャツとか、なんつの。スタッフ的な雰囲気、プロのニオイ……ゼロじゃん!(つか、はなはだしくマイナス)
でもまあ、買わなくてもいいわけですよね?
「それがさ……買うまで帰らないんだよね……」
え?
軽い押し売り的な?
しかも聞いたらその買うまで帰らないっぷりがスゴい。
営業マン最大の武器であり見せ場でもあるセールストークで粘りに粘る……ってんなら分かるけど、このジイちゃん、もはや話芸を磨こうとか、もう少しお客さんに楽しんでもらおうとかいう向上心もゼロで、会話が途切れると何を話すでもなく、じとーっと立ったまま居座り続けて帰らないという、ほとんど生き霊みたいな営業方針なのである。
ジイちゃんが現役の営業だったことにも驚いたのだが、そのビジネススタイルにさらに驚かされる俺。
そして俺は三陸の田舎で小学生だった頃、ときどき背中にカゴを背負って野菜を売りにくるバアちゃんがいたのを思い出していた。
カゴの中から大根の葉っぱとかネギの先っちょが出てたりするビジュアル的な野菜売ってる感。
重たい物をうんとこしょうんとこしょと担いで坂道を登っていく強靭な足腰。
呼ばれてもいないのに各家庭を笑顔で回るタフなハート。
お客の中には「重たいのに」「暑いのに」「こんな坂の上まで」なんつって買ってくれる人情派もいるだろうが、「今日はいいです」って断られても文句は言わず、にこやかに「またお願いしますね」と去っていくフェアプレー精神。
思えば彼女達はプロだった。
それに引き替え、なんだこのケミカルジジイは!(以下:ケミジイ)
ドアが閉まってから10分近く。
ケミジイはまだ現れない。
外を見ると、社名もロゴも何も入っていない真っ白いクルマのリアハッチを開け、ごにょごにょと不審なうごめきを見せている。
2本のキャブクリーナーと領収書を用意するのにいったいどんだけ時間が掛かるんだろう。
つかホントはキャブクリーナーなんて持ってないんじゃないだろうか。
という疑惑が頭の中で膨らみ出したあたりでドアが開き、2本のキャブクリーナーを手にしたケミジイが再登場した。
「はぁ〜ん、涼しい〜」
入るなりケミジイはのんき極まりない第一声を発してから「1995円です」と言い、お店の奥に代金を取りにいったKさんに向かってよちよち歩き出した。
するとすかさずKさんが鋭く言い放った。
「そこで待ってて!」
犬かと。
ケミジイはKさんに言われるまま、フュージョンの横に置いてあったイスに座っている俺の前で停止した。
そして言った。
「はぁ~ん、涼しい~」
またかと。
Kさんの言う通り、著しく話芸に難があることは明らかである。
ケミジイが去るとKさんが教えてくれた。
「あの人、そこで待っててって言わないと、そのへんウロウロしちゃいろんなもんひっくり返すんだよ。そんなのが1回2回じゃないからね……」
でもKさんはケミジイの無気力営業に付き合って、ちゃんとキャブクリーナーを買ってあげてるのがエラいなあ、と思いながら領収書を見せてもらうと、そこにはそれっぽい社名の社印が押してある。
会社は埼玉。
Kさんのお店からだと40キロくらい離れてるだろうか。
たぶん、クーラーでキンキンに冷えた事務所では、1人息子が机の上に足を投げ出してスポーツ新聞を読みながらタバコを吸っているに違いない。
レディース & ジェントルメン & ザス!
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
ケミジイのような謎のケミカル屋さんがこの世に存在することにも驚いたけど、Kさんが修理していたフュージョンが、中古で買ってメーター換えてから26万キロ走ってることにも驚いた次第です。(総合司会・坂下 浩康)
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http://sotb-project.com/






ちょいと用事があってKさんのお店に行くことにした。
コーヒーでも買ってこ。
ってことで近くの安売りスーパーへ。
迷うほど商品点数があるわけじゃないのですぐに2本の缶コーヒーを手に取った俺はバアちゃんの後ろに並んだ。
バアちゃんは会計が始まった瞬間、よく聞こえなかったのだが「冷凍物と乾き物は別々に置いてくれ(or 別勘定にしてくれ)」的なややこしいことをレジ係に頼んだ。
でもレジ係の男性はキョトンというか、「何言ってるか分かんない」って顔をして何か言い返した。
そうか。
中国人留学生かなんかか。
彼も一生懸命何か言ってるけどイマイチ伝わっていない。
言葉の壁に加え、バアちゃんの耳がそこそこ遠いってのも交渉を難航させているようだ。
そのまま2人は平行線。
やがて支払いを無視して買い物入れ用の段ボール探しを始めるバアちゃん……。
温かく見守っていたつもりだったのだが「俺は缶コーヒー2本、チャチャッと買いたいだけなんだよ!」って空気がビンビンに出てしまったのだろうか。
すぐに別な店員がやってきてもう1台のレジを開けてくれた。
ざーっす!
ドアを開けるとKさんはクリーム色のフュージョンの修理中だった。
まままままま。
安売りの缶コーヒーを勧めつつ、用件も含めていろいろくっちゃべっていると、入り口のドアに人が近づいて来る気配がした。
パッと見ると、推定年齢60〜70歳のジイちゃんがドアノブに手を掛けていた。
よれ気味の白いポロシャツによれ気味のベージュのスラックス。
炎天下に5分いたら干からびるどころか蒸発してしまいそうな雰囲気。
でもKさんの知り合いで、買い物ついでに顔出したって感じでもない。
なんだろう、このものすっごい違和感は。
「道を聞きに来た通りすがりのジイちゃん」
俺の答えはそれ以外になかった。
ガチャ。
ドアが開いた。
10センチくらい。
それ以上ドアは開かなかった。
ジイちゃんが「あの〜、駅はどっちでしょうか?」とか聞く前、つまりジイちゃんにはひとことも言わせずに気配を察したKさんが「キャブクリーナー2本!」という声を発した瞬間、ドアはパタッと閉まったのである。
いったい目の前で何が起きているのかサッパリ分からない。
今のは注文?
もしかして軽いケミカル屋的な?
「そう! たま〜に来るんだよねえ……」
え?
散歩中にしか見えない今のジイちゃんは営業マン?
ゼロじゃん!
スーツとは言わないけど、メーカー支給のロゴ入りシャツとか自社のロゴ入りシャツとか、なんつの。スタッフ的な雰囲気、プロのニオイ……ゼロじゃん!(つか、はなはだしくマイナス)
でもまあ、買わなくてもいいわけですよね?
「それがさ……買うまで帰らないんだよね……」
え?
軽い押し売り的な?
しかも聞いたらその買うまで帰らないっぷりがスゴい。
営業マン最大の武器であり見せ場でもあるセールストークで粘りに粘る……ってんなら分かるけど、このジイちゃん、もはや話芸を磨こうとか、もう少しお客さんに楽しんでもらおうとかいう向上心もゼロで、会話が途切れると何を話すでもなく、じとーっと立ったまま居座り続けて帰らないという、ほとんど生き霊みたいな営業方針なのである。
ジイちゃんが現役の営業だったことにも驚いたのだが、そのビジネススタイルにさらに驚かされる俺。
そして俺は三陸の田舎で小学生だった頃、ときどき背中にカゴを背負って野菜を売りにくるバアちゃんがいたのを思い出していた。
カゴの中から大根の葉っぱとかネギの先っちょが出てたりするビジュアル的な野菜売ってる感。
重たい物をうんとこしょうんとこしょと担いで坂道を登っていく強靭な足腰。
呼ばれてもいないのに各家庭を笑顔で回るタフなハート。
お客の中には「重たいのに」「暑いのに」「こんな坂の上まで」なんつって買ってくれる人情派もいるだろうが、「今日はいいです」って断られても文句は言わず、にこやかに「またお願いしますね」と去っていくフェアプレー精神。
思えば彼女達はプロだった。
それに引き替え、なんだこのケミカルジジイは!(以下:ケミジイ)
ドアが閉まってから10分近く。
ケミジイはまだ現れない。
外を見ると、社名もロゴも何も入っていない真っ白いクルマのリアハッチを開け、ごにょごにょと不審なうごめきを見せている。
2本のキャブクリーナーと領収書を用意するのにいったいどんだけ時間が掛かるんだろう。
つかホントはキャブクリーナーなんて持ってないんじゃないだろうか。
という疑惑が頭の中で膨らみ出したあたりでドアが開き、2本のキャブクリーナーを手にしたケミジイが再登場した。
「はぁ〜ん、涼しい〜」
入るなりケミジイはのんき極まりない第一声を発してから「1995円です」と言い、お店の奥に代金を取りにいったKさんに向かってよちよち歩き出した。
するとすかさずKさんが鋭く言い放った。
「そこで待ってて!」
犬かと。
ケミジイはKさんに言われるまま、フュージョンの横に置いてあったイスに座っている俺の前で停止した。
そして言った。
「はぁ~ん、涼しい~」
またかと。
Kさんの言う通り、著しく話芸に難があることは明らかである。
ケミジイが去るとKさんが教えてくれた。
「あの人、そこで待っててって言わないと、そのへんウロウロしちゃいろんなもんひっくり返すんだよ。そんなのが1回2回じゃないからね……」
でもKさんはケミジイの無気力営業に付き合って、ちゃんとキャブクリーナーを買ってあげてるのがエラいなあ、と思いながら領収書を見せてもらうと、そこにはそれっぽい社名の社印が押してある。
会社は埼玉。
Kさんのお店からだと40キロくらい離れてるだろうか。
たぶん、クーラーでキンキンに冷えた事務所では、1人息子が机の上に足を投げ出してスポーツ新聞を読みながらタバコを吸っているに違いない。
レディース & ジェントルメン & ザス!
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
ケミジイのような謎のケミカル屋さんがこの世に存在することにも驚いたけど、Kさんが修理していたフュージョンが、中古で買ってメーター換えてから26万キロ走ってることにも驚いた次第です。(総合司会・坂下 浩康)
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by hoya3104
| 2012-09-29 00:01
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