最高速物語 〜第三京浜深夜二時〜 |
と言うと二郎君(http://youwbike.exblog.jp/16131161/)が言った。
「えーッ! なんでなんで? なんで俺がマスター役じゃないんスか〜!?」
ややマジに。
俳優じゃないのに。
飲んでいたとはいえ。
俺に言われても困るんだけど。
でも二郎君の気持ちはアツかった。
店内も焼き鳥用の備長炭で暑かった。
そこで俺は、そのアツい気持ちに応えるため、Goo Bikeのプチ企画で『キリン』を語ってもらうことにした。
9月上旬に取材を行い、記事が掲載されたGoo Bikeは10月初旬に発売されたわけだが、『キリン』トークのアツさもさることながら、1時間を超えたインタヴューの半分以上が費やされたのが、二郎君が青春を燃やした第三京浜での最高速アタック話だった。
俺は途中から「このボリュームを1ページに収めるのは無理……」と思っていたのだが、ノンストップの二郎節に圧倒されるカタチで取材は終了。
あー、もったいない。
最高速の話、面白かったのに〜。
そうか。
ブログで供養すりゃいいじゃん。
ってことで、雑誌に載せられなかった二郎君の最高速物語、いってみゃ〜す
(注:文中の安藤君=二郎君、です)
★ ★ ★
二郎君がバイクに乗り出したのは走り屋全盛期。
先輩も同級生もって感じで必然的に走り屋仲間とツルむようになる。
そこには加速する第三京浜 & カスタムブームがかぶってくる。
2つのムーヴメントのど真ん中。
二郎君は船館とかフェリー埠頭でNSRやTZRでヒザを擦ったり、「ゆっくり走ったことがない」というくらい狂ったようなスリ抜けをしたりしながら、同時にゼファーのカスタムにも没頭していた。
ところがNSRでもゼファーでも、第三京浜じゃリッターバイクに全然かなわない。
一瞬で抜き去られる。
スゴい速度差。
うー、ちきしょー。
いつか限定解除するぜ。
でも難しいって言うよな……。
とか思っていたところ突然、友達がたまり場にニンジャで現れた。
そこで二郎君の心は一気に炎上。
そして手に入れた、というか限定解除にチャレンジしながら買ってしまっていたのがZZR1100のD型だった。
★ ★ ★
第三で勝つためですよ。
★勝つ? 誰に?
環状線はWさんっていう伝説の人がいて無理だと思ったんです。
だから俺は「真っすぐ」やろうって。
★最高速は業界用語で「真っすぐ」なんだ(笑)
12Rとハヤブサが出る前で、ブラックバードかZZRが速いって言われてた頃。
「ZZRが欲しい!」じゃなくて「ZZRじゃないとあのステージには行けない!」ってのがあったし、第三のトップ集団もみんなZZRだったし。
★それはいくつぐらいの時?
23、24の頃かな。
まず友達と2人でZZRのD型買ってやり出した。
そこそこ速かったし下道狂ってたから「第三落とすぜ!」って気持ちで行ってた。
して「俺ら速いよね!」みたいなこと言って。
★ゼファーから乗り換えてサッサと200何十キロ出せちゃうもんなの?
一瞬だけならスゴい速度が出せたりするけど、平均だと220くらいでしたね。
行ってたのがみんながたまるような週末じゃなかったし、時間も夜遅かったから、クルマもバイクもあんま走ってなかったってのもあるけど。
★ある意味安全かも。
なんか二郎君的な決めごとってあったの?
今日はダメだなって日はやらないこと。
すべてが整わないと開けられないんですよ。
★儀式とかおまじないとかは?
カギを3秒握るとか、スタンド上げる時にカカトで3回パンパンパン。
これが死なないおまじない。
あと、Uターンして合流する時までシールド開けていって、閉じる時に右ミラー見ながら「アスカ行くわよ」って言う。
★なんスかそれは?(笑)
エヴァですよ。
俺の中で一番落ち着くんです。
★大事だね、そういうのは。
で、そこからスタートして……。
ある夜、ノーマルZZRのC型に会ったんです。
俺らは買ったばっかでハンドル上げたり、バックステップとマフラー入れたりってカスタムもやってたんだけどソイツらはノーマルで、しかもボロボロなんですよ、カウルとかつぎはぎで。
「もったいねえ乗り方しやがって」ぐらい言ってたのね。
で、朝方4時くらいだったかなあ、空が白み始めた頃。
「あ、D乗ってんだ」つって話しかけられた。
俺らもイキがってたから「そっすよ」みたいな感じで。
そんで「東京方面? 一緒に帰りましょうよ」とか言われたのかな。
いま考えると誘われてるんですよ。
★どんな人達だったの?
単なるスイングトップに変なケミカルウォッシュのジーンズにスニーカーみたいなカッコなんですよ。
「なんだコイツら? 気合い入れてる俺らに何言ってんだ?」とか思って。
★二郎君はどんなカッコしてたの?
バイク乗る時はコケるのが前提だったから革ジャンは必ず着てました。
それにとジーンズにエンジニアって感じで。
そこから保土ヶ谷出て、Uターンして本線入りました。
したらソイツら、合流してちょっと並走して1台が飛び出した瞬間に2秒でいなくなったんです。
★2秒!
ホントにいなくなったんです。
俺、第三で消されることないと思ってたのに瞬殺されて……。
全然レベル違い。
ホントに速くて、理解できなかった。
★やられた〜って感じ?
そこまで圧倒されたのは初めてでしたね。
同じバイク4台で走ってて、真っすぐで見えなくなるってのはいったい何キロ出してんだと。
あの頃の俺らは220~240しか出せてなかったの。
でも30、40キロ差くらいで見えなくなっちゃった。出口で会った時、俺らもう顔面蒼白ですよ。
★完敗だ。
「なんなんすか?」みたいな話になったら、「いや~、頑張ってたよ」って感じで全然エバるそぶりもない人達だったんです。
200何十キロで抜かれる速度差があまりにスゴくて、「ついに本物に会えた」と。
同時に「これがホントの最高速ランナーか……俺らも本気でやらないと!」って思いましたね。
★十分本気だと思うけどなあ。
そこからが俺らの修業時代ですね。
週に2回は「今夜未明」って言われるような、だいたい1時半くらいに駒沢公園のファミリーマートの前で待ち合わせして第三行って特訓して。
★特訓てどんなことするんでしょう?
まずはアクセル一定で全開で走れないと無理だって気づいて。
数ヶ月やったらある程度開けられるようになって。
★アクセルを開け続ける特訓?
そうですね。
あとはきっちり動くこと。
スリ抜けは下道でかなりやってたから自信あったんで、暗い中、全開域で目を慣らすことですね。
その人達に会う前、ブラックバードの人にも会ってたんだけど「ここにはスゴいのがいるんだよ」って聞いてたんです。
★最高速やってるヤツらが普通にゴロゴロいたわけね?
ゴロゴロっていうか、フェイク的なのはたくさんいた。
その中でホントに速いって言われてたのが、★★★★★★★★(ショップ名)のホントに実測300キロ出るカタナ1100に乗ってた「I」君。
あとZZRのC型に乗ってた「M」って人。
あと途中でZZRからブラックバードに乗り換えるんだけど「S」って人。
★知る人ぞ知るってヤツだ。
3人それぞれに信者がいてツルみがあった。
I君は★★★★★★★★が作ったフルチューンのZZRにもよく乗ってた。
要するにI君に乗らせるためのマシンだったの。
乗ってもらえば実走セッティングできるし、I君を一番速い人にしたいっていう周りの動きもあって。
★プロのテスターみたいじゃん。
I君はきっちりフルチューンで、3人の中で一番近い感じがあった。
他の2人はノーマルベースで改造とか気にしてないの。
最高速の領域が好きな人達で、あの速度にいくための車体に金はかけてなかった。
タイヤだけはきっちりしたのを履いてたけど、あとはほぼノーマルで、きっちり開け切る。
でもI君は止まることとかも前提でフルチューンなの。
1台300万とか500万とかかかってる車体ばっかで来てた。
それからみんなとツルんで走るように……っていうかお互いに電話番号も何も知らないんですよ。
行ってる時間帯がだいたい同じだったから、保土ヶ谷に行けば会えるってだけで。
★そもそも人に会うとかバイク眺めるとかじゃなくて「飛ばしたい!」って行ってるだけなんだもんね。
それで通うようになって、友達と行ったりピンでも行ったりしてるうちに、どんどん差が縮まってきてるなと。
友達はほとんど俺としか走らなかったけど、俺はその人達の誘いにはだいたい行くようにして。
★誘ってもらえるようになったんだ?
なったの。
出会ってから1年くらい経って、ようやく携帯電話持ち出した頃で。
僕はI君に可愛がってもらってたんだけど、ある時、「安藤君も最近結構速くなってきたから1回やってみようか?」って言われたのね。
★「1回やる」って?
「やるのは11時台。安藤君の動きが見たい」って言ってきた。
「真っすぐだったら安藤君は開け切れるから、ニンジャだとZZRの安藤君には勝てない。だから一番面白い時間帯でやろう」って。
★面白いつか、11時じゃそこそこクルマがいるよね。
かなりいますね。
で、保土ヶ谷で待ち合わせして、まず上りやったのね。
こっちはもう結構心臓バクバクだったけど、「行くぜ!」って感じで開けてった。
でもスリ抜けしながらキッチリ後ろについてこられて、最後の川崎ストレートで一気に離された。
向こうはずっと俺を見てて、最後の残り1、2キロ手前あたりで前に出られて一気にいかれちゃった。
そのとき俺、もう打ちひしがれて、「なんでだよ? ここまでやってきたのにまだニンジャについていけないのかよ」って。
★そらガックシくるわなあ。
I君はすっごい背がちっちゃいの。
160ちょっとくらいかなあ。
それで鬼バックステップでチョコンって乗ってる感じなんだけど、パッタパタ寝かすのね。
スリ抜けとかハンパなくて。
本物は違うなっていう。
★そこから下り?
保土ヶ谷に戻ろうってUターンしたんだけど、俺、もう覇気がなくなってた。
それでもI君と2人でUターンして玉川からまた下りに乗った時、S軍団ってのが一緒に乗ってきたの、時間合わせなんかしてないのに。
★軍団登場! マンガみたいだね。
S軍団はS君と男2人に女1人でZZRが4台。
そこからI君と4人はあうんの呼吸で一気にスッ飛んでった。
俺も途中まではついて行ったんだけどニンジャに負けたっていうので気持ちが萎えてて、途中で「今これ以上やったら事故るな……」って思って抜いちゃった。
で、保土ヶ谷戻って、「やっぱスゴい……。I、S、Mの3人が第三でトップって言われてたのに、S組も速いんじゃん。しかもなんで女もこんなに開けられるんだよ……」ってますます覇気がなくなって……。
★浮かぶね、姿が。
したらI君が先に帰った。
俺もタバコ吸って帰ろうかなと思ったら、S君に「東京戻るんだったら一緒に行こうか」って言われて。
一瞬「もういいよ」ってなったけど、ちょっと待てよと。
さっきは11時台のスリ抜けだったけど2時くらいになってたし、ここはやらなきゃ絶対にダメだと。
★復活だ。
ZZR5台でUターンして本線入って。
始めの1キロくらいみんな様子をうかがってるの、誰が出てくるんだろうって。
したら1人出た瞬間に一気に全員が出たのね。
これが人生の中で一番のバトルだったんだけど、S君と俺がほぼ同着ゴールで、後ろの3人が「まあ頑張ったね」って感じ。
そこで初めてS君に「安藤君は今、間違いなく第三で5本の指に入ってるから」って言われて。
★伝説の夜じゃん!
それが26歳くらいの時かな。
「ついにここまできたか」って感じでひとつの区切りができたんで、焼き鳥屋の修行もキッチリやり出しました。
★そのまま勝ち続けたわけですか?
いろんなところからコナ掛けられるようになりましたね。
1人で行くと「帰りどうですか?」「やりませんか?」みたいな。
エンジンのことを考えてたから1日にやっても2往復。
心の中に認められたって余裕があったから負けませんでしたね。
したらS君が「キッチリやる」ってブラックバードを買ってきた。
★まだやるんだ。
俺は12Rを買いました。
そしたら誰もついて来れなくなった。
一人旅。
自分との戦いになっちゃった。
それからちょっと第三遠のきましたね。
12Rも売っちゃって。
それが28歳の時。
★みんな生きてるの?
そういう付き合いだったから分からないですね。
★元気だといいけどね。
俺ら以外にもいろんなヤツらがいたんですよ。
Zでスッゴいすっ飛ばす人とか、保土ヶ谷寄らずに往復だけやって帰ってく人とか。
ZX10をこよなく愛してZX10の最高速にこだわり持ってる人とか、誰とも群れない人とか。
そういう場所だったんですよ。
12Rを売った二郎君は、その後、行きつけの飲み屋のマスターから「乗ってくれないか?」と譲り受けたニンジャで事故って背骨を折ったのだが、その入院中にニンジャを購入。
どんだけかやるのかと思うのだが、33歳の時。
ずっとニンジャに乗ってる友達に誘われたツーリングの帰路。
週末の関越、夕方5時台。
ニンジャ2台で抜きつ抜かれつ、「3車線渋滞カッチカチの中、220以下針落ちないみたいな」バトルを最後に「速いの」を降りた。
そんな二郎君は現在、生産中止になったニンジャの最終型A17を「いつか」のために持ってます。
まだやんのかーーッ!
★ ★ ★