ターボってなんのためにあるのか? |
それは大学生の時だった。
僕は内装関係のバイトをしていた。
バイト先には青森弁丸出しのおじさんがいて、よく一緒に現場を回った。
夏。
現場で汗だくになった帰りの関越道。
おじさんが突然、最大風力でかけていたクーラーを乱暴に切りながら叫んだ。
「ターボッ!」
クルマは日産キャラバン。
それは気持ちのターボだった。
それはターボごっこだった。
それでもおじさんはアクセルを踏み込む。
荷室から、脚立とカーテンレールがぶつかる安っぽい金属音を響かせながら、クルマは一気に!……いや、ちっとも加速してなかった。
でも、「ターボッ!」すらもちょっと青森弁がかってたおじさんの叫びが面白かったので、ときどき真似しながら生きてきて今に至るのであった。
そんなターボごっこ程度のターボ歴しかない人間が、ターボのことなんか知るわきゃないので、二輪各誌で活躍しながら自分で梅酒も作るライターの北野富士男ちゃん(仮名)に聞いてみました。
ターボ!
何たる甘い響き。
イタリア語でツインターボは「ビチュルボ」。
いかにも速そう。
排気圧でもって扇風機を回して、その回された扇風機とシャフトでつながってる別の扇風機が連動していて吸気側へと混合気を押し込む、ってのが簡単な仕組み。
もちろん本当は全然難しかったりするんでしょうけど、簡単にね。
最近のハイパワーなバイクたちは「ラムエア」とか言って、走行風を利用して吸気側に空気を押し込むでしょ?
アレを機械的にやったのがターボ。
吸気はもともとピストンが下がる時に生まれる負圧で起きているんだけど、負圧が生まれるってことはピストンは本当はもっと早く下がっていきたいハズ。
そこで吸気側に圧をかけてあげれば、ピストンが生み出す負圧を待たずして新たな混合気が流れ込んでいくから、より抵抗なく回転が上昇するというわけ。
うん、きっとそんな感じ。
仕組みとしてはそれだけ。
タービンは排気管のなるべくエンジンに近いところに置かなければいけないとか、圧縮比を下げないと壊れるとか、いろいろと付随する技術的な話はあるけれど、そういうことは別に知ってる必要はないでしょ、自分で作るわけじゃないんだから。
じゃ、なんのためにあるかってーと、単純にモアパワー。
モアパワーなら排気量を上げればいいじゃんって話だけど、少ない排気量なのにトンデモパワーってのがいいんじゃないのかなぁ。
後付けで小排気量にターボをつける人にとっては、「免許区分の関係とか車検の関係で大きいのは乗れない……けどパワーが欲しい」というジレンマを解消してくれるってこともあるでしょう。
ターボに乗るにあたっては、純正でも後付でも、アクセルをガバッ! と開けることが大事。
ソロソロ開けるとなかなか排気圧も高まらず、扇風機が回り出すのが遅い。
ガバチョ! と開けると早い段階で扇風機がビュンビュン回って吸気もガシガシと圧がかかり、さらに回転がバシバシに上がって排気圧もさらに上がっておおおぅぅぅ!!! 相乗効果でブットビ加速!!!!! というわけ。
なんで浸透しないのか。
結構繊細だったりするからかな。
純正でちゃんと調教されていても、やっぱりノンターボエンジンに比べると回転の上昇が唐突だったりするし。
直線だといいけど、コーナリング中にドッカンドッカンパワーが出てくると扱いにくいし。
さらに技術の進歩や排気量区分の曖昧化で、ノンターボでもソートーのハイパワーがスムーズに提供されるようになった。
「タービンなどの重量物が増える=部品点数も増える」ことを考えると得策ではなくなったわけだ。
そんで、今は純正ターボ車はありません。
クルマでは浸透してるけど?
クルマは圧倒的に重い!
ドッカンとパワーが出ても、動かす対象がデカイから挙動に直接影響する比率が少なく、運動性能に悪影響を及ぼしにくい。
バイクはパワーの出方が直接コーナリングとかに影響するから、右手の開け具合に素直な特性のほうが乗りやすい。
クルマだとタービンやインタークーラーといった周辺機器がバイクに比べて車体に納めやすい、というのも浸透した要因でしょう。
メーカーが得策じゃないと思って今は作られてないから、ターボってダメなのかっていうと全然ダメじゃない。
よく出来たターボ車に乗ればやっぱり面白い。
圧倒的パワー。
右手と完全には連動していない感じ。
扱う難しさ。
それがまた面白いんじゃないかなぁ。
バイクって、扱う面白さと、扱えない面白さの両面があるから。
なんのためにあるか。
今は単純にオモシロさの提供です。
乗ってオモシロイ!
例え速く走れなくても、立派な存在意義だね!
★ ★ ★
ターボを回せ。
底まで飲もう。
いかんせん古い。
以上です。