君はバイクに乗るだろう VOL.97 |
「ヨガに来たけど胃が痛いので途中で帰ります」
って嫁さんからメールが来たのが午後2時半。
ヨガにしろなんにしろ途中で切り上げて撤収するとは普通じゃない。
夜、家に帰ると嫁さんがベッドで苦しんでいた。
痛がりっぷりが尋常じゃないのでお医者さんに診てもらおう。
つってやって来た近所の病院。
静まり返った午後8時。
「先ほど電話した坂下ですが」
声を掛けると受付の奥からジャージにサンダルのオジさんが出てきた。
まあ、病院にいるんだから病院の人だろうと思って簡単な書類を書き、診察を待っていると、全体的に豪栄道みたいな雰囲気のオバちゃん看護婦が現れ、オジさんと薬がどうのとヤリトリし始めたのだがこの2人、なんか全然噛み合わない。
つーのも「薬は〜……ここに入ってるのを使っていいのかしら?」とかいうオバちゃんの問いに対するオジさんの答えのほとんどが「私は分からないんですよ」の一点張りなのである。
大丈夫なのかこの病院と思いながら聞いているとオジさんは警備員だということが判明した。
この病院に入るのは初めてなんだろうな。
にしても、風呂上がりに川沿い(イメージ:大田区の呑川)で夕涼んでる工務店の大親方みたいなカッコが意外というか警備感ゼロというか無理でしょ警備。強盗追っかけられないでしょそのサンダルじゃ。
まあいいや。
早く嫁さん診てやってけろ。
少しして先生がやってきた。
嫁さんがウーウーうなりながら診察室に入っていく。
食あたりは今日のお昼に食べたものじゃなく1、2日前の物が原因の場合もあるんです。
水分と栄養を補給しないといけないので点滴をしましょう。
うっ(点滴のため体勢を変えられてると思われる嫁)
いっ(点滴の針を刺されたと思われる嫁)
2日分のお薬を出しますので今日は安静にして、痛むようでしたらまたお越しください。
食事はおかゆとかウドンとか胃に優しい物から再開してくださいね。
いきなりキムチとか豚の角煮とかはいけません。
ふぁい(やっとこさ、そして「この状況から回復したからっていきなりキムチとか豚の角煮なんて食うかよ!」と思いながら返事をしていると思われる嫁)
診察室は待合室の真ん前。
しかも天井下の小窓が全開なので中の様子は丸聞こえである。
待合室に置いてある男性ファッション誌をめくっていると警備員のオジさんがやってきて、「言ってくれればすぐにでもスイッチ入れますぜダンナ!」ってな感じで右手に持ったリモコンを俺に向けつつ言った。
「テレビ見ますか?」
見ん。
見る見ないじゃなくてうるさいっしょ、すぐそこで病人が寝てるのに。
とは言葉に出さず即座に断り、少年サンデーを3冊読み、MONO系雑誌の「今が旬のベストセラー特集」みたいな巻頭特集の中、洋服や小物に混じって載っていたホンダCBR250Rの記事を1分掛からずに読み終わり、手持ち無沙汰になって外に出た。
さっき先生は「キムチと角煮はダメだけどポカリはOK」とも言っていたので、入り口横の自動販売機でポカリを2本買った。
そして戻ろうとしたら玄関の白いタイルの上に緑色の物体Xが……お! カマキリ! 久しぶり!(そのカマキリとは初めて会ったけどカマキリと会うこと自体が久しぶりだったので)
つってしゃがんで接近するとカマキリは、ボクサーが両足は動かさずに上半身だけ上下左右させてパンチを避けるみたいな動き(なんかあるよね用語が。と思ったけど調べず)をしながらちょっとずつ前に進んでいく。
いつどこから敵が襲ってくるかも分からん。
きっとこの動きは警戒心の表れで、命がけの一歩一歩なんだ。
チミこそ警備員に相応しいよ!
と思いつつ、その小刻みな揺れ方が面白くて動画を録った。
つっても1分くらいで飽きたので院内に戻り、嫁さんの見舞いに診察室に入った。
横たわる嫁さんはなんか大丈夫な感じ。
スゲエな、点滴。
効いてんじゃん。
あと半分くらいか。
看護婦さんが来て点滴の投入位置を手首からヒジの方に変えて去っていく。
なんか悪いもん食った?
今朝?
昼メシ?
俺も同じもん食ったし。
日曜日のシメサバ?
俺の方が3倍食ったし。
とか言ってる間に点滴が残りわずかになったので、警備員のオジさんに看護婦さんを呼んでもらおうと診察室を出ると、待合室のベンチの特等席に陣取ったオジさんがテレビを見ていた。
MUTEにしてまで。
レディース & ジェントルメン & ザス!
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
カマキリの動画を撮った2、3日後。
カマキリ男が出てくる怪奇時代劇のカメラマンをやっている夢を見た。
カマキリ男といっても仮面ライダーの怪人みたいに顔だけカマキリなのではなく、カマキリそのもの(身長180センチくらい)に変身してしまう男の話。
撮影するのは変身シーンではなく、おじいさんがカマキリ男に襲われるカットだった。
草むらの向こうに見え隠れするおじいさんの顔。
突然「うっ」つって、おじいさんが倒れて画面から消えると、そこには緑色の物体Xがゆらゆらしている。
何が起きた?
なんだあの緑色は?
と、ここでタイトルがドーン。
みたいな感じなのだが、おじいさんは草むらで野グソ中に不意を突かれるという設定だった。
つーわけでVOL.97、いってみゃ〜っす。(総合司会・坂下 浩康)
★ ★ ★