福島県大玉村「夜のごんぶと伝説」 |
地獄の釜の蓋が開いて、成仏できない死者の霊に足を引っ張られて海に引きずり込まれる。
だから溺れるよ。
死ぬよ。
これは三陸・宮古に伝わる言い伝えだ。
小学校低学年の俺は、これを「んだんだ」と信じていて、線香を上げにやってくる親戚の叔父さんが、「冷たいものでも」なんつってススメられたビールを昼間っから飲み、酔っぱらって大声で話している声を2階の子供部屋で聞きながら、早く夜にならないかなあ。早く花火がしたいなあ。と思いながらお盆を過ごしていた。
東北の夏は短い。
一番暑くて、一番海で泳ぎたいのがお盆だったりする。
お盆を過ぎると夏休みも終わるし、急に秋めいてきたりする。
だから、クロールができるようになった小学校5年生くらいから、言い伝えを無視して海に出かけるようになった。
大学生になった俺は免許を取り、ある夏、バイクで帰省した。
鳥取だの岡山だの静岡だの長野だの、お盆に帰るべき故郷があるのになぜか宮古まで遊びにきた友達もいて、毎晩激しく宴会していたわけだが、なんせ田舎なので昼間は海に行くぐらいしかやることがない。
リアシートにスイカをくくりつけ、海パンでバイクを走らせる。
東京で遊んでいる仲間が俺の故郷を走っているのがなんだか不思議だ。
浄土ヶ浜、藤の川、浪板海岸。
「うわ! ウニがたくさんいんじゃん! 宮古の海ってスゲえな!」
長野出身の友達が、岩場に張りついているちっこいイソギンチャクをウニと間違えて感動している。
昨日は大雨だった。
お盆に台風なんてツイてねーなー。
でも翌日は台風一過の青空だったので、俺達はすかさず海に繰り出した。
外海はまだ波が高い。
でも、遊び慣れた浄土ヶ浜の内海なんてプールみたいなもんだぜ。
スイカを海に放り投げ、水球ごっこをしながら泳ぎ出す。
岩場まであと3メートル。
あの取っ掛かりから上がってちょっと右に行けば飛び込みポイント。
ってところで……あれ?
突然前に進めなくなった。
もがいてももがいてもあと3メートルの岩場に届かない。
俺は岩場の手前にできた小さな渦に巻き込まれていた。
お……溺れる!
生まれて初めて「死ぬ!」と思った。
それと同時にものすっごく怖くなった俺は「ボート!」と叫んでいた。
お盆は海に入っちゃダメ。
地獄の釜の蓋が開いて、成仏できない死者の霊に足を引っ張られて海に引きずり込まれる。
だから溺れるよ。
死ぬよ。
前に進むんじゃなくて、後ろに戻ったら、「なんだ。キルスイッチかよ……」みたいな感じでアッサリ脱出できたけど、昔から言われていることってちゃんと理由があるんだろうなあ。ご先祖様が帰ってきてるんだから、そんな時くらい家で大人しくしてなさいってことなんだろうなあ。と、思った次第なのであった。
そして、時は流れて2011年、夏。
俺は福島県の大玉村にいた。
「お盆は海に入っちゃダメ」
そんな、いにしえからの言い伝えを収集して後世に語り継いでいくことをこの夏から趣味にした言い伝えハンターのホヤちゃんです。
趣味にしたばかりなんで数は全然ねっすよ。
ねっすけど、まずは5月の連休に帰省した時、宮古魚菜市場に手作りのお惣菜を卸しているオバちゃんから聞いたのを2つ。
「いざという時のためにも、味噌と梅干しを常備しろ」
「川は狭めちゃいけない」
ホントはもう1つあったけど忘れました。
おもっさげなごぜんす!(大変申し訳ありません)
でもこの夏、思いもよらぬところ、具体的に言うと福島県の大玉村で新たな言い伝えをいくつか伝授されたので発表します。
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