更新後記 VOL.15 |
さ、帰ろっかなー。
って、キーを回したけどノーリアクション。
まさかのヒューズ切れ。
いや、まさかってほどでもない。
SUZUKI GT750。
このバイクを納車した帰り。
ガソリンスタンドに立ち寄って給油して、さ、帰ろっかなー、って時もヒューズ切れちゃったし。
よくあるよくある。
だから換えのヒューズは常備携帯している。
でも、今日に限って、手ぶら……。
冬の八王子、夜8時。
家まで10km。
イルミネーションがやけにまぶしい。
ちっちぇー豆電球の灯りですら太陽のようだ。
バイクを押し出して4km。
車検工場があった。
「すいませーん」
中では1人のメカニックが黙々と作業中だった。
50は越えているだろう。
この道一筋、って感じの工場長。
「換えヒューズありませんか? 20でも15でもいいんですが……」
「換えヒューズか〜。今持ち歩く人いないからなあ」
と言いながら工場長は作業を中断して工場内を一回り。
片隅でしゃがみ込み、何かを拾い上げて差し出した。
手の平には黒ずんだヒューズ。
「これ、生きてるかもしれないから付けてみ」
果たしてヒューズは生きていた。
「ありがとうございます! お代を……」
財布を出そうとすると、工場長はそれを制して言った。
「いいバイク見せてもらったから要らないよ」
いつも。
ときどき。
今日初めて。
すべてひっくるめて、読んでいただきありがとうございます。
「ヒューズ切れ、ちょっといい話」は、VOL.11に出てくれたGT750の神君が、おととい地元で体験した実話です。
こんな工場長になりたいね。 (総合司会・坂下浩康)