号外 魔墓狼死の先輩 |
鋭角。
放射状。
今日も世界中でいろんなバイクがいろんな音を鳴らし、誰かを興奮させたり、しかめっ面させたりしている。
青空に抜けていくバイクの音は、どこへ行くのだろう。
靴音が好きだ。
『天才バカボン』のバカボンパパがぺたぺた言わせる草履の音。
『ど根性ガエル』のヒロシがコッペパンみたいなカタチのズックで走る時のアスファルトにちょっと砂が浮いてる感じの音。
『太陽にほえろ』の殿下やゴリさんとかのスーツを着た刑事達が犯人を追いかける時の革靴の音。
子供の頃、特に憧れたのは革靴の音だ。
草履やズックはなんとかなりそうな気がしたが、革靴は「大人にならないと履けないもの」みたいな遠い存在だった。
なんとか革靴に対抗できる履物はないか。
そう考えた僕が辿り着いたのは下駄だった。
音質は違うが、よく響く。
僕のふるさとでは、どこかで火事が発生すると消防署のサイレンが鳴る。
僕にとってのサイレンは、七曲署捜査一係へ掛かってくる事件発生の通報だった。
サイレンが鳴ると僕は2階の子供部屋から駆け下りて、下駄で出動した。
刑事気分だった。
現場にいち早く駆けつけて消火なり救助なり、なんかやることがある人のつもりで激走した。
ほとんど毎回、現場の場所も分からずにそのへんを走り回ってるだけだったが。
それからワックスが効いた体育館の床の上で鳴るバスケットシューズのキュッキュ音や、ラグビーのスパイク裏に打ち込まれた鉄のポイントでアスファルトを歩く時のコツコツ音などのスポーツ系が好きになったりしながら成長した僕は、映画『狂い咲きサンダーロード』を観て、革靴の音、それも走っている革靴の音はやっぱりカッコいい! と思ったのである。
急襲。
追われる男達。
夜明け前の静寂の中に、性急な靴音だけが鳴り響いていた。
青空に抜けていくバイクの音は、どこに行くのだろう。
天国まで届いて、消えるのかな。
山田辰夫さんのご冥福をお祈りいたします。