ビッグスクーターはなぜこんなにも増殖したのか? PART1 |
怒髪天の増子兄ィは、「フュージョンってあんじゃん、あのユニットバスみたいなヤツ」という名言を残している。
それから5年後、僕はこんな疑問をぶつけられた。
「おまる」はなぜ増殖したんでしょうか?
おまるって何?
それはビッグスクーターのことを差す隠語だという。
上手いこと言うねえ、どうも。
俺は一生乗らねえな、と思って無視していても、実際問題、ビッグスクーターは街にあふれている。
なんでこんなことになっちゃったのか。
まずは、バイク界の隆盛をおはようからおやすみまで見つめているバイク雑誌界隈の人ならなんか語れるだろうということで、元BikeBros全誌編集局長というなんだか豪勢な、お刺身盛り合わせみたいな肩書きを持つ博多の狂犬ライター・藤崎進一ちゃんに聞いてみました。
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今から大体6〜7年程前。
TWブーム(キムタクブーム)が衰退し、代わりに台頭したのがこのブーム。
最初は首都圏。
ホンダ・フュージョンから始まってヤマハ・マジェスティ。
スズキのスカイウェイブは例によって遅かったですね。
カワサキはOEMやし。
じゃあ、なんで無限増殖したか。
これはもう、近年叫ばれている今どきの若者たちの基本的な部分が原因です。
それは何か?
答えは簡単です。
「ダルい」からです!! いや、マジで。
これはBikeBros時代、ショップでヒヤリングを行った結果分かりました。
「ギアチェンジすらダルくね?」
そんな感じ。
オッチャンバイクであったフュージョンを見て、「おー、コレってよく見ると、未来のバイクみたいでよくね?」
なんて言ったかどうかは知りませんが、軽〜〜〜いノリで始まったんですね。
実際乗ると実用的だし、楽だし。
またこのあたりが「ゆとり教育入口世代」だったのは言うまでもありません。
もう……「一応バイク乗るケドさぁ〜、ダルいんだわ」なんです。
だから「ラッコ乗り」するんです。
さすがにこの時は、二輪の将来お先真っ暗って感じでしたね……。
あっ、当たってるやん!
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ラッコ乗り!
上手いこと言うねえ、どうも。
ビッグスクーターって上手いこと言わせる宝庫だね。
ラッコ乗りしてる人っていい干物になると思うんだがどうか。
そんじゃもう1人。いろんなバイク雑誌でそーとー活躍している売れっ子ライター・古都欧洲ちゃん(偽名)に語っていただきます。
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簡単。キレイ。ノーメンテ。
これに尽きますよ、スクーターブームは。
先日、ある二輪メーカーの社長が(今教習所に通ってるらしいんだけど)「バイクって、難しいんですねぇ!」とこぼしてました。
そう、難しいんだ!
クルマのマニュアル免許も難しいとかいうけど、マニュアルのクルマはいくら失敗してもカンガルーみたいにピョコンと前に飛び出すか、もしくはエンストするだけ。
だけどバイクでクラッチの操作を誤ると、一気にバランスを崩したりして転倒につながっちゃう。
転ばずに済んでもギクシャクしているのが一目瞭然で(ここ大事)カッコ悪い!
クラッチをつないで、アクセルを開けると車体が起きる。
クラッチを切れば推進力がなくなって不安定になる。
反対にクラッチを切らずにアクセルを戻すと、自動的にエンジンブレーキがかかって一気に不安定になる。
ね。
ギアの選択もあるし、難しいんだ、マニュアルのバイクって。
バランスを崩すと途端に重く感じるし、止まろうと思ってフロントのブレーキをエイッとかけると握りゴケってのも待ってる。
クワバラクワバラ。
オートバイってコワイ!
ところがスクーター、これは簡単。
アクセル開ければ前に進む。
戻してもエンジンブレーキが効きにくいからすぐに不安定になることはない。
低重心で足がつく。
スポーツ性を求めていないから前輪への依存度は低く、ブレーキはリアをグイグイ握れば結構止まる。
だからフロントがズリッと滑って転ぶことも少ない。
簡単だね、安全だね。
何より、バイクの腕があんまりないことがバレナイね!
これ大事。
そして失敗を恐れるがあまり、カッコ悪いところ見せるぐらいなら、チャレンジしないほうがいいや、ってなっちゃう。
キレイ。
そう、スクーターはキレイなんです。
エンジンや足周りなどの機能部品は大きなカバーの下で目立たない。
だから普通のオートバイに見られるようなエンジン周りの汚れやオイル臭さ、チェーン周りのガビガビオイルやサビなどが見えない(てかチェーンないし)。
普通のバイクをキレイに見せるにはかなりのパーツを磨いたり、歯ブラシとかで奥までシコシコ磨かないと映えないことが多いけど、スクーターならフクピカでひと拭き! 外装さえキレイならヤレた感じは少ないよね。
見えない後輪はいいとして、あとはなんとなく見える前輪を拭いとけば充分でしょ。
キレイというのは「スマート」という意味も含めます。
これは収納や2ケツのこと。
一般的なバイクは、雨具をビロビロに伸びたネットでタンデムシートにくくりつけたりするでしょ。
カッコワリィ!
収納がないからだいたいリュックでしょ。
これは別にカッコ悪くないと思うけど、スマートかって言ったらそうでもない。
2ケツする時はタンデムステップを出したり、どこに掴まっていいのか分からなかったりと、やっぱりスクーターの方がスマートだったりするんだな、タンデムライダーの荷物の収納も含めて。
そしてノーメンテ。
本当は全然そうじゃないんだけど、比較的メンテ(少なくとも自分でやっておきたいメンテ)項目は少ないでしょう。
クラッチがないからクラッチワイヤーの調整や注油はナシ。
チェーンがないからチェーンへの注油、調整はナシ。
タイヤなんかもスポーティじゃないから結構もっちゃうし、磨耗してもハンドリングに影響を与えにくいからあんまり気をつけることもない。
エンジンもそんなにハイメカじゃない水冷がほとんどだから、オイル交換も5000キロはしなくて大丈夫だったはず、メーカー指定で。
とはいえブレーキパッドは減るし、タイヤだっていずれは寿命がくる。
チェーン代わりのベルトは定期的に交換しないとイキナリぶちっと切れて走行不能になる。
でも、これらの整備項目はショップに任せる類のもの。
だからタマーにショップに行けばいいだけで、自分が自分のスクーターに対して責任感みたいなものを持たなくていいという気軽さがあるんだな。
利便性を追求する現代社会。
こういった理由でスクーターは増殖したように思う。
けど反対に、今は一時期に比べると衰退してるのも事実。
なんでだろう?
飽きたってのもあるだろうし、そのノーメンテが行き過ぎて壊れて降りたって場合も多々あると思う。
お手軽にバイク(の様なもの)に触れたかった一見さんが去ったというのもあるかもしれない。
そして、本当にバイクが好きになった人は、「やっぱりクラッチ付きの、操る感覚が欲しい!」って思ったんじゃないかなあ。
そんな人達がいても、今はマトモな新機種がなくてかわいそうだけど。
やっぱりオートバイって、いくらか難しさがあって、いくらか責任感をもって接し、自分がカッコいいと思う車種をカッコよく乗るという図式があってこそ本当に浸透するんじゃないカシラ。
だってビッグスクーターは流行ったけど、浸透はしてないもの。
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流行ったけど浸透はしていない。
朝青龍が進退を懸けて強行出場した初場所は見たけど、先場所は全然見なかった、みたいな感じだろうか。
「信号待ちで、あらぬ方向からスリ抜けしてきたビッグスクーターに前に出られるとカチンとくるのはなぜ?」
「音楽ガンガン鳴らしながら走ってる人の気持ちがまったく分からない」
「家でもないのにどうしてあんなにくつろいでるの?」
ビッグスクーターは謎だらけである。